日本経済のマクロ分析 低温経済のパズルを解く(2019)
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2019
鶴 光太郎
慶應義塾大学大学院商学研究科教授
1984 年東京大学理学部数学科卒業、2003 年オックスフォード大学経済学博士号(D. Phil.)取得。
1984 年経済企画庁入庁、OECD 経済総局エコノミスト、日本銀行金融研究所研究員、経済産業研究所上席研究員などを経て現職。主な著著に『日本の経済システム改革』日本経済新聞出版社)『人材覚醒経済』(日本経済新聞出版社、日経・経済図書文化賞受賞)などがある。
前田 佐恵子
内閣府大臣官房人事課企画官
1999 年京都大学経済学部卒業、2003 年京都大学経済学修士取得。
2000 年経済企画庁入庁。連合総研主任研究員、内閣府経済社会総合研究所総務部総務課課長補佐、内閣府政策統括官(経済財政分析担当)付参事官補佐(総括担当)、日本経済研究センター研究本部主任研究員などをへて現職。主な著書に『日経文庫 ビジュアル日本経済の基本』(共著、日本経済新聞出版社)などがある。
村田 啓子
首都大学東京 経済経営学部教授
1986 年東京大学経済学部卒業、99 年オックスフォード大学経済学博士号(D.Phil)取得。
1986 年経済企画庁入庁。OECD 経済総局エコノミスト、、内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官などを経て現職。主な著書に『最新 日本経済入門』(共著、日本評論社)『日経文庫 ビジュアル日本経済の基本』(共著、日本経済新聞出版社)などがある。
バブル崩壊、デフレ、少子・高齢化などの他の国に先駆けた重い課題、苦悩を背負ってきた日本経済は1990年代以降模索を継続しています。様々な政策も実行してきましたが、低成長・低体温から脱却できてはいないのは何故なのでしょうか。このパズルを解くことが必要です。
本書は、この30年で日本経済のメカニズムがどのように変わり、新しいパターンが生み出されているのかを解明するもの
(マクロ)経済学の発展・最新成果・オリジナルな研究を十分取り入れ
これまでの経済学の理論・実証分析の蓄積を活用し
日本の状況に合った「テーラーメイド」の経済学を意識し
日本のマクロ経済の変化と現状の鳥瞰図を示し
包括的に論じます。
本書の基本アプローチは、経済白書など公開データを活用しながら、理論、歴史(1980年代~)、国際比較の三位一体で日本経済の変質を明らかにするもの。
また本書では、最先端のマクロ経済学を柔軟に活用する。
具体的には、各経済主体の行動様式を解明しながら(ミクロ的基礎重視)、それらの主体が相互連関しながら経済全体としてどう動くか(一般均衡視点重視)を考えていきます。
マクロ的視点、ミクロ的視点を自在に行き来しながら様々な主体、要因などの連関を考える。
政策提言については、エビデンスに基づいた政策が強調され、エコノミストや経済学者が政策決定プロセスにより関わるようになったにもかかわらず、むしろ、現実にはエビデンスから離れた政策が行われるようになってきているという問題意識で臨みます。平成のマクロ経済政策をそうした視点から批判的に検討し、警告を発します。
日本経済をデータから正面からとらえた本書は、これからの日本経済を語る上での基本書となります。
https://bookmeter.com/books/14676648
〇 本書を読んで「ああ、そうなのか!」と得心した問題がいくつもある。以下には、そのような問題とその答えを書き並べるので、ご興味があれば読んでください。本書の内容のつまみ食いです。
・ なぜ経済成長率が鈍化したのか?:潜在成長率が低下したためである。労働(とくに一人当たり労働時間の減少)、資本(資本蓄積が進展したために新規投資が減少した)、TFP(=生産性。IT導入の遅れ、海外進出やM&Aの進展)のすべてが潜在成長率の低下に寄与している。
・ なぜ好景気が実感されないほど景気循環がはっきりしなくなったのか?:景気拡張期の成長率と拡大スピードが鈍化したためである。労働需給がひっ迫しても好景気にならなくなってしまった。そして、また好景気になっても、①賃金があがらない、②物価も上がらない、さらに、③設備投資も活発にならない、などの現象がみられている。
・ ①なぜ好景気でも賃金があがらないのか?:非正規労働が増加したこと、労使が中高年正社員の雇用維持のため賃金抑制に動いたこと、賃金の下方硬直性のため賃上げには慎重になったこと、が原因と考えられる。
・ ②なぜ好景気でも物価があがらないのか?:趨勢的な低インフレのため企業は価格を上げにくいこと、消費者と企業との間で値段を上げないという暗黙の了解ができた状態になっていること、が理由である。
2022/09/19 ここ最近は潮目が変わっている
黒田日銀総裁「家計の値上げ許容度が欧米並みに上昇」(2022年6月6日)
・ ③なぜ好景気でも設備投資が活発化しないのか?:長期的な成長期待が高まらないこと、海外直接投資やM&Aにお金がまわってしまっている(これらは企業としては「投資」だが国民経済計算上は「投資」にならない)
・ なぜ家計の貯蓄率が低下してきたのか?:かつて20%もあった家計の高貯蓄率が今や5%になっている。人口構成の高齢化(高齢者の貯蓄率はもともと低い)、高齢者の貯蓄率の低下(消費をしている。生きているうちは大丈夫)、勤労・若年層の貯蓄率横ばい(所得が低下、それと同時に消費も抑制。将来の所得は下がると覚悟している)などが原因である。
・ 90年代以降の財政悪化の原因は何か?:ひたすら社会保障費の増加が原因である。バブル期は財政黒字だった。その後社会保障費が増加した。そのほかの支出(公共事業など)は他のOECD諸国と比べてもきわめて小さいのである。また、他の国と違って消費税率が低いことも寄与している。
・ なぜ政府債務残高がこれほど高くても破綻しないのか?:第一に、国債の国内消化率が抜きん出て高い(88%)こと、第二に、消費税率が低いので、将来の税の引き上げ余地が大きいと見られていること、がその理由と考えられる。
もくじ https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784532134976
序章 「課題先進国」としての苦悩とその克服に向けて―本書の立場・スタイル
1 本書の基本的スタンス
『マクロ経済学と日本経済』 再訪
本書の立場・スタイル
2 マクロ経済学の系譜
ケインズ経済学 (ケインジアン)
マネタリズム(マネタリスト)
合理的期待形成学派 (新しい古典派)
実物的景気循環理論(リアル・ビジネス・サイクル理論)
新しいケインズ経済学(ニュー・ケインジアン)
新しい新古典派総合 (“New Neoclassical Synthesis") DSGEの主流化
DSGEモデルが直面した苦難
DSGEモデルと本書の立場との関係
3 本書の構成
第1章 鈍化した経済成長
1 経済成長の鈍化とその要因
戦後の経済成長の変遷
戦後経済成長
潜在成長率の低下
潜在成長率鈍化の要因分解
2 労働投入量の伸びの鈍化はなぜ起こったのか
労働投入量の変化
労働の質の変化
3 資本の伸びの鈍化はなぜ起こったのか
資本の伸びの変化
資本の生産性低下の要因―資本の質
低調な情報化投資
4 TFPの伸びの鈍化はなぜ起こったのか
産業別TFP上昇率の動向
産業構成比の変化
企業行動に着目したTFP変化の要因分解 (内部効果、 参入・退出効果、再配分効果)
5 まとめ―資本・労働・TFPから見る
第2章 大きく変化した日本経済の部門間バランス
1 部門間ISバランスの変化
部門間ISバランスの特徴と変化
資金余剰主体となった企業部門と家計部門の貯蓄縮小
バブル崩壊後のISバランスの特筆すべき特徴
2 主要先進国との比較でみた日本の特徴
世界金融危機後に企業部門でみられた変化
家計部門は貯蓄超過
政府部門および海外部門(経常収支)の特徴
3 企業部門における貯蓄超過継続と家計の貯蓄超過縮小の背景
関連:家計は黒字、企業は赤字の逆
企業部門の貯蓄超過は諸外国と比較してもなぜ日本で顕著なのか
日本でみられる家計部門の貯蓄超過縮小の背景
4 まとめ -企業の貯蓄超過という謎
第3章 変貌する景気循環
1 戦後の景気循環の基本的特徴
景気循環と経済成長
景気動向指数でみた1980年代以降の景気循環の動き
2 景気拡大スピードの鈍化
景気動向指数(CI) でみた各景気拡張期の比較
各循環の経済指標の動き
各循環の労働需給と賃金・物価の動向
3 景気拡大メカニズムの変貌相乗効果とフィードバック・メカニズムの弱まり
設備投資のストック調整
設備投資GDP比率の推移
企業の業況判断と設備投資の関係
在庫投資循環の変貌
4 まとめ―――景気循環の検討で浮かび上がったパズル
第4章 労働市場からのアプローチ―人手不足、賃金、物価をめぐるパズル解明
1 マクロ経済と労働市場の関係におけるパズル
景気と労働需給の「デカップリング」ーパズル1の解明
2 労働需給と賃金の「デカップリング」ーパズル2の解明
年代別にみた労働需給と賃金上昇率の関係
業種別にみた労働需給と賃金上昇率の関係
労働需給と賃金の「デカップリング」に対する解釈
賃金上昇率と物価上昇率の関係
3 まとめ 乖離の背景
第5章 企業行動戦略からのアプローチ―物価と設備投資をめぐるパズル解明
1 物価をめぐるパズル企業の価格戦略の変化
価格粘着性の要因
日本における価格粘着性の状況
グローバル化とeコマースの影響
2 まとめ―物価が上がりにくい背景
3 設備投資をめぐるパズルー -企業の投資戦略の変化
景気の動向からみた設備投資の評価―加速度原理再考
トービンのgを使った設備投資関数による分析
設備投資が下方シフトしたのはなぜか
能力増強投資から更新投資へのシフト
企業の期待成長率低下
設備投資に影響する収益増背景の変化
国内設備投資から海外直接投資へのシフト
設備投資からM&A へのシフト
4 まとめ―――更新投資とグローバル化
第6章 家計の貯蓄率はなぜ低下したのか―消費・貯蓄行動をめぐるパズル解明
1 1980年代までの家計の高貯蓄率を支えた要因とその後の変化
家計貯蓄率低下のこれまでの議論
国民経済計算と世帯調査の接合
2 家計の貯蓄率はなぜ低下したか 一国民経済計算と世帯調査の接合
年齢階級別貯蓄率の動向 (総世帯) 一1994年以降現役世代は横ばい傾向、高齢層は低下
年齢別貯蓄率変化の背景一1994年以降、 若・中年層 (50歳未満) で実質所得低迷
可処分所得増減の要因 (総世帯)
世代(コホート) 別にみた世帯当たり所得・消費の動向 (総世帯)
世帯属性(勤労者世帯、無職世帯、単身世帯)別の貯蓄率の動向
より最近の動向
3 勤労若年者層と高齢者層で貯蓄率の動きが異なるのはなぜか
4 まとめ―勤労・若年者層の期待の低下
第7章 平成の財政・金融政策の機能不全―残された政策課題とは何か
1 政府債務はなぜここまで膨らんだのか―財政の持続可能性を問う
財政状況の推移
財政悪化をもたらした要因は何か
財政の持続可能性を問う
新たな社会保障と税の一体改革に向けて
2 非伝統的金融政策導入でもデフレ的状況から脱却できなかったのはなぜか- 未知の世界へ突入していった金融政策
金融政策の学問的なレジーム・チェンジーニュー・ケインジアン的アプローチの採用
非伝統的金融政策への世界初の突入とその進化
世界金融危機への対応
アベノミクスと物価安定目標の導入
関連:2%の物価安定の目標
物価安定目標達成早期化および異次元緩和
QQEから再び金利政策へ (緩和長期化への対応)
3 まとめ ―異次元緩和の功罪
異次元金融緩和
4 アベノミクスの光と影
一定の効果を上げたスタートダッシュ
看板の架け替えに終始した第三の矢、 成長戦略
アベノミクスは消費税にどう向き合ったか
5 まとめ―「出口」 のないアベノミクス
補論 金利成長率格差とPB黒字GDP比率目標との関係
第8章 「低成長・低温経済の自己実現」 の打破を目指して
1 成長力強化への息の長い取り組み
情報化投資の促進に向けて
AI時代の人的資本向上のあり方
中小企業の生産性 (TFP)向上
成長力強化における政府の役割
2 「低温経済」からの脱却
雇用システム・労働市場からのアプローチ―賃金システム是正による労働移動の活発化
関連:人材の流動化
企業の価格戦略からのアプローチ
3 「課題先進国」としての新たな挑戦とコミットメント
参考文献
おわりに
COLUMN
1. 成長会計にもとづく全要素生産性、潜在成長率の計測
2. 高まる無形資産の重要性
3. 情報化資産としてのデータ
4. 日米貿易摩擦とISバランス論
5. 経常収支不均衡の経済学的解釈
6. 景気動向指数と景気基準日付の決定
7. 景気循環論再訪—ピグー、ケインズの現代的解釈
8. フィリップス曲線はなぜフラット化したか?
9. 人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか
10. 市場支配力と価格転嫁
11. 家計世帯構造の変化
12. 総貯蓄率と純貯蓄率
13. FTPLとMMTに対する評価
14. 政府の「骨太方針」 にみる構造改革から成長戦略への転換
骨太の方針